最近気になるトピックといえば、令和の米騒動ならぬ、お米がない問題です。
その原因は究明されないまま、政府が備蓄米を放出するといった対症療法が続けられています。
ビジネスがこれほど見える化されているいまの時代、物流ほど「見えない化」された業界はないと言われています。
間に入ったどの業者にどういったコストがかかっているのかが隠されているのです。
この辺も令和の米騒動に絡んでいるはずです。通常価格で販売している地元のお米屋さんはこれに怒っていました。
「メディアがあおりすぎだ」と。
店舗の在庫もあるのだから、世の中からお米がなくなるわけがないと、倉庫に入っているお米の山を見せてくれました。

報道はネガティブな内容でないと人が振り向かないとされていますが、その傾向が年々高まっている様子です。
パンダが日本に来た、皇族が結婚出産をしたといった、誰もが喜ぶ報道はなかなかしづらくなったのでしょう。
これも価値観の多様化でしょうか。もしくは、テレビのYouTube化でしょうか。


●今月のブログ
第50回飯田橋読書会の記録:『アメリカ映画の文化副読本』
(渡辺将人著)~アメリカ人は自由と多民族をハリウッド映画に仮託する~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/05/23/214712

AIが手足を持ち、個人から宇宙にまで広がる
~MCPとその可能性の未来~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/05/17/171211

本が人と社会をつなぎ、産業を活性化させる
~VOOXリサーチャー日渡健介氏との対談~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/05/07/101932

●今月の雑感
IT編集者になろう ~出版不況脱出編~
最近、「町で本を読んでいる人が増えている」という声をよく耳にする。
あくまでも感覚的ではあるが、個人的にこれには共感する。

▲技術でつながるドイツの民族と、出版不況からの脱出
2023年にドイツに行った際、ベルリン郊外ケーペニックの書店員と立ち話をしていた。
細かな計画配本や注文制度など、全体のしくみを最適化することで「出版不況はとっくに終わった」といっていた。
ドイツで書店員になるには国家資格がいることは日本人にもよく知られているが、それを問うと、書店には本に関する専門教育を受けた書店員を置く必要があるが、必ずしも書店員が国家資格を持つ必要はない、という返答だった。
このお店では国家資格を持った書店員を経営層に置いているという。

ドイツではマイスター制度といって、年月をかけて職人さんを丹念に育成し国家資格を与え、次世代につなぐという技術継承のしくみが徹底している。
友人一族が営むケーキ店「コンディトライ・シュミット」の当主は現在9代目。友人の31歳の甥っ子が若手マイスターとして店舗の味と信用を継承している。
隣国とは地続きで、日本のように海洋で隔たれていないドイツでは、技術という心身の知識を通して、国民のアイディンティディが結束しているのである。
国家レベルで技術が標準化されているドイツでは、書店員としての技術も連綿と継承されているのである。
ドイツでは大手チェーン書店と町の書店が共存しているところもまた興味深かった。
上記の書店員さんによると、大手チェーン書店と町の書店の共存はよくある風景だという。
そこにもなんらかの、日本人が数年後に経験するはずの、全体最適化のしくみが働いているに違いない。

▲タイムマシンとともに出版不況の脱出はやってくる
世界的なトレンドが日本にやってくるタイミングは、必ず欧米の数年遅れだ。
1990年代後半、ソフトバンクグループの孫正義代表は「タイムマシン経営」といって、アメリカでトレンドになった技術やメディアにいち早く投資し、数年後に回収するという経営手法をとっていた。
そんなことをやっていろいろな成功や失敗を繰り返しながら大成功したのが米Yahoo!の買収だった。
いまではご覧の通りのYahoo!だが、当時は海のものとも山のものともつかない中国人が経営する謎の企業だった。
孫さんの「タイムマシン経営」でいち早く買収し、雑居ビルでのアルバイトとの立ち上げから一気に軌道に乗せ、成果を十分に刈り取ることができた。
そしてソフトバンクの株式店頭公開にも成功し、孫さんは事業を急速に拡大させ、経営者としての軸足を別次元に据えるようになった。
Yahoo!Japanの創立は30年も昔の話だから、いまと比べると世界の商業構造が相当変化している。
とはいえ、マルクスの世界同時革命理論が実証されなかったように、世界が同
時に変化することは現実として起こり得ない。
そう考えると、「タイムマシン」のようにリードタイムをもって、出版変革の世界の流れは遅れて日本にやってくることは現実としてありうる。
日本の出版不況も、そろそろ過去のものとなりつつあるのだ。
現に日本でも、出版業界全体の取り組みとしての計画配本や注文数の事前確定など、経営性・計画性は、締め付けだと感じられるほど日々厳しく強化されている。
しかしこうした締め付けも、数年後には「過去のもの」となり常識となる。
業界努力の表れがじわじわと現実化している結果が、「本を読んでいる人が増えている」というイメージにつながる。
ひいては過去統計として数値化され、数年後にはグラフなどで見える化されるのである。

▲コミックがけん引する出版の未来
現在、日本の出版業界で過去統計の数値情報として目に見える大きなポジティブ要素がある。
それは、コミックである。
紙と電子版の総売り上げで年々急増している。それに比例し、海外版権の販売数も増加している。近年では書店数が減少し搬送の仕事が底をついてきた取次(出版の問屋)においても、版権売買といった取次ドメイン外業務も手掛けるようになってきている。
出版業界をけん引していたメディアは、かつては、毎週毎月、定期的に大量発行・流通される雑誌だった。
しかしこれからは、コミックが紙と電子の両輪で日本の出版業界をけん引していく。

▲「編集者が足りない」
ここ数年「編集者が足りない」という声も各出版社から耳にする。
「町で本を読んでいる人が増えている」と同次元でつながっているはずだ。
とりわけ、IT書籍の編集者は足りない。
それはなぜか。
パソコンの販売台数が急伸し、パソコンが社会化した1980~1990年代、IT雑誌とIT書籍が大量に出版された。
それは一種のブームだった。その時代に活躍したIT編集者たちが、近年軒並み引退しているのだ。

1980年に大学新卒だった編集者は現在67歳。
相当気合の入った編集者は65歳まで踏ん張って、その後嘱託で2年延長67歳で引退、といった感じだ。
この時代的構造が、IT書籍の編集者が足りない最大の理由である。
ひと昔前なら、編集者たちは引退後に独立していた。
出版社や編集プロダクションを立ち上げ、著者の活動の横展開を支援したり、古巣の出版企画や制作をサポートしたりと、独自の価値提供を行っていた。
出版業界がいまほど縮小していなかったかつては、このようなエコシステムが成立していたのだ。
いまでは、無言でさっと引退したり、別業界に移る編集者は少なくない。
引退の真意は各個人でそれぞれあるが、少なくとも一つだけ共通でいえることがある。
それは、IT出版にそこまでする魅力や将来性はないという、いわば損切りである。
この状況を逆の方向から眺めてみよう。
すると、IT出版という業界の中に、ブルーオーシャンが見えてくる。

▲「再定義された編集者」の出現
書籍という媒体は、物理的に決してなくならない。つまり、書籍制作に伴う編集者が消滅するということは決してない。
しかし一つだけ消滅するものがある。それは、「編集者」という、いままで使われてきた言葉の定義である。消滅に気づいた人がこれからは続々と出てくる。同時に「再定義された編集者」は各ジャンルに増える。
コミックをはじめ、ビジネス、実用、文芸、教科書など、さまざまなジャンルにわたって「編集者」が増えてくる。
再定義された編集者はあらゆるジャンルに登場するのである。
その流れに乗じて、IT書籍の「編集者」は確実に増えるのだ。

* * *

今後も、さまざまな対話と交流の場の提供を計画しています。
状況の変化は、随時メルマガやDoorkeeper、Facebook、Xなどでお伝えします。ぜひチェックしてください。

メルマガの登録は、こちらから。
【本とITを研究する会 Doorkeeper】
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/

本メルマガのバックナンバーは、こちらから。
【バックナンバー】
https://www.zukunft-works.co.jp/posting/mailmagazine

ここまでお読みいただき、深謝いたします。
心がブレない、気持ちの通った明日が見えますように!

===================================

本とITを研究する会 三津田治夫
http://tech-dialoge.hatenablog.com/
https://www.facebook.com/tech.dialoge/
https://www.zukunft-works.co.jp/