相変わらず世界は、アメリカのトランプ大統領を中心に振り回され続けています。
それに伴い本国アメリカではデモが発生し、民主主義の本領を発揮しつつあります。
人間は馬鹿な側面を持ちながら、そうでない側面も持ちます。
人類が後者の側面を発揮してつくりあげた民主主義というシステムが正常に動いてくれることを祈りながら、自力がおよぶところに注力し、日々、平和な生活を営んでまいりましょう。

ところで、2月16日に開催された「第2回 ピアニスト髙橋望による ブックトークと音楽」の模様を以下のブログにアップしました。
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/04/07/130919
興味のある方は、ぜひお読みください。

●今月のブログ
読みました:『WTF経済 ―絶望または驚異の未来と我々の選択』
~コーディングが文化である。出版人ティム・オライリーがつくったITのカルチャー~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/03/14/174839

『ゼロからわかるITほんき入門+まんが』シリーズ
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/03/09/200635

★★以下ブログに250912掲載

●今月の雑感
AIの時代に「文化」を取りに行く意味とは?
最近あまり聞かなくなってきたものに、「文化」という言葉がある。
雑誌や書籍が花開いた昭和時代までには「出版文化」という言葉もあった。
そこでいま一度、忘れかけていた言葉である「文化」をめぐって考えてみる。

▲人間が生み出した心にかかわる成果
Webを検索してみても、あるいは周囲の人たちに聞いてみても、この言葉はよくわからない。
こういったときに役立つものはやはり、岩波書店刊の『広辞苑』である。
そこから「文化」で引いてみた。
以下、第四版からの引用である。

===
【文化】人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果。
衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など生活形成の様式と内容とを含む。
文明とほぼ同義に用いられることが多いが、西洋では人間の精神的生活にかかわるものを文化と呼び、文明と区別する。
===
さすが、識者や関係者の手が入っているだけあり、明確で清らかである。

「人間が自然に手を加えて形成してきた」とは、文化に関してとても大づかみな解釈だ。
しかし「物心両面の成果。」と付言されることで、納得がいく。
成果とは、果実が実を結ぶというポジティブな意味を表現している。
人間が自力で形成したポジティブなものが文化である。
「文化的な生活」という言葉があるが、これは生活がポジティブである状態を指していることからもわかる。

広辞苑の最後に「西洋では」と但し書きがされている点が興味深い。
「物心両面の成果」の「心」にかかわる成果が文化であり、「物」にかかわることは文明であるとも解釈できる。
しかし「衣食住をはじめ」とあるように、人間社会を便利にした成果物の集合が文明であり、心の成果物が文化なのである。

▲ITは文化である
そのあとに「技術」とある点もまた目を引く。本来、技術も重要な文化なのである。
私たちを取り巻くすべてのIT(情報技術)も、広辞苑の説明に従うと、本来はしっかりと文化に位置するものなのである。しかし、ITを文化であるという日本人は多くない。
また、ITはビジネスのツールの一部にすぎないとする解釈も多い。

出版文化という言葉も、近年はぼ耳にしない。
おそらく、昭和の時代に「文化」という言葉を乱発しすぎ、人々がこの言葉に辟易した結果、文化という言葉を避けるようになってきたと私は理解している。
そしてあるときから、文化という言葉の意味は「生産性が伴わないダメなもの」と、ネガティブな意味を帯びるようになったのだ。

たとえば「文化的な生活」という言葉。
いまではいささか妬みを含んだ言葉にも捉えられる。
また、文化という言葉を振りかざし、本来、文化とセット関係にある「生活」がスキップされてしまうという傾向もある。
ゆえに、文化的な生活とは生産の伴わないダメな生活、ともとらえられるのである。
これはひとえに、明治文学などによく登場した「高等遊民」の仕業である。
高学歴で裕福な家系に属するインテリ(知識や学歴が高い人。
語源はロシア語の「インテリゲンチャ」)が、定職にも就かず、理屈を述べながら疑似学者や疑似芸術家を演じている。
こうした人たちのことを、高等遊民と言う。

▲高等遊民に生産性を与えたITの力
いまなら高等遊民たちでも、知識や持論、理屈をうまくまとめて言葉で述べるだけで、ITが生み出したYouTuberやブロガーという定職に就くことも現実としてできる。
しかしながら、ネットなどアウトプットの場が現代と比して極端に少なかった明治時代、家系が蓄積した財産を頼りに、ひたすら疑似学者や疑似芸術家を演じ続けるしかなかったの
だ。
出版文化が花開いた昭和、高等遊民たちは疑似学者や似非芸術家を演じることなく、出版という定職に就くことができた。
資産家の家系に生まれ育った太宰治や坂口安吾は、そうした新ビジネスに乗って成功した高等遊民の一部であるといえる。
しかしながら彼らの堕落的な作風や生き方から決してポジティブな意味でとらえられることはあまりない。

こう考えると、いまはとても健全な時代である。
いまは、アウトプットの場が限定的ではない。その場は、ネット上に広大に広がっている。
アウトプットの意欲一つさえあれば、疑似学者や似非芸術家を演じ続ける必要はまったくなくない。
すべては個人の意欲で、自由にアウトプットができるのである。

▲文化は、生活とセットで循環する
文化とは、文字が化けたものである。そう、私は勝手に解釈していた。
となると、文字を持たないハワイやアイヌには文化がない、ということになる。
しかし前述の文化の定義に「芸術・道徳・宗教」と、非言語表現も対象に含まれるように、文化に文字は必須ではないのである。
文化をとらえる際に大切なのは、人間生活でポジティブな意味を追及することだと私は理解している。

上記の高等遊民にも共通するが、文化という言葉を振りかざして生活を無視するするという文脈もたしかにある。
「文化を守る」と言いながら倒産する企業はいくつもあった。
ある意味、「アウトプットしない言い訳」として、文化という言葉が使い続けられてきたという残念な経緯もある。
文化とは生活とセットになり循環しているものだ。
「技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治など」という文化をインプットするばかりで、文化を支える生活のためのアウトプットに力を注がない人や企業も少なくない。

ドイツの劇作家のブレヒトが「生活が先、芸術はあと」という警句を吐いていたということを、どこかで聞いたことがある。
むしろ、文化に深く浸りたい人であればるほど、必死になって生活に力を注ぐのではないだろうか。
それが健全な状態である。
しかし、生活のために精神をすり減らし思考停止に陥ったり、判断能力を奪われ生活を破綻させる人もいる。
それではまったく文化的(ポジティブ)ではない。
私がこれまでにいろいろな人と出会った印象から、文化に深く浸りたい人であればるほど、受け身ではないと感じている。
必死になって文化を取りに行く。
それこそ、時間もお金もなければ、それらを必死になってねん出する。
時間とお金の使い道に困っている人が受け身で文化に深く浸っているのは、文化を消費しているだけである。

▲AIは、文化っぽいものを生成する
消費も一つの文化ではある。
が、これからの時代は、意識して文化を取りに行くことが求められるのは間違いない。
理由として、大きなものがある。AIの社会化、である。
今後AIは、人間の膨大な英知を利用して高速に感動的ないろいろなもの(音楽や絵画、小説、物語……)を自動的につくり上げる。
『広辞苑』レベルの知識編纂も、数秒で行うことができる。
人間が汗水流してつくり上げた知識を、AIは一瞬にしてそれとなく組み上げてしまう。
同時に、「文化」らしきものも、過去データを利用してAIはつくり上げてしまう。

人が受け身であると、なにが起こるか。
AIがつくり上げた「文化」に食いつくされる。
なぜならAIは、最も売れるそれらしい文化を、統計学的に(過去の情報を利用して)作ることにたけているからだ。
その精度は日々向上している。向こう5年ほどで超高性能な「文化らしきもの」を創り出す力をAIは持つ。

そこで重要な点がある。
それは、AIには人間の文脈を持つことはできない、ということである。
言い換えると、文脈を作り合うことができるのは、意思を持った人間同士なのである。

文化を言葉で語り合うこともまた文脈構築であり、文化形成
である。
それは、人間にしかできない行為だ。
文化のポジティブさ。
それは、人間が能動的に文化を作ること。
さらに、それを能動的に取りに行くこと、である。

▲AIに餌付けされる未来を選択するか?
我々は知らずのうちに文化を食べている。
それが受動的であれば、エサを与えられている動物と同等である。
能動的になにかを取りに行くということはしない状況だ。
文化を大切にしない人間は存在しない。
私はそう考えている。
文化を受動的に受け取るだけであれば、人は、文化の模倣が上手なAIの奴隷になるだろう。

ゆえに、最後に一言を伝えたい。
AIの時代、人間が人間である理由は、能動的、自発的、アクティブであること。「取りに行く」、に尽きる。

* * *

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心がブレない、気持ちの良い明日が見えますように!

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