「本とITを研究する会」メンバーの皆様へ

お世話になっております。
この一か月、皆様はいかがお過ごしだったでしょうか。
期末の事務処理に追われている方も多いと思います。
仕事の気分転換に、外の空気を吸いに出ることもおすすめです。
本当に意外な発見や出会いがあります。
屋外では梅が咲きはじめ、そろそろ桜の季節です。
平成最後の桜ですね。

今月は3月27日(水)、「エンジニアのための「おとなの速読」入門講座」と題するセミナーを秋葉原で開催いたします。
追って告知いたしますので、お楽しみに。

では、「今月ブログ」「今月の雑感」をお伝えします。


●今月のブログ

Springフレームワークを巡る16年
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2019/02/22/164422

『コンビニ人間』を読んで考えた「自分らしさ」を追求する手段としての「教養」と「感性」
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2019/02/15/135100

「ボヘミアン・ラプソディ」と「ゴルトベルク変奏曲」が見せてくれた、「体験」を進化させるテクノロジーの力
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2019/02/08/142842


●今月の雑感:エンジニアのための、キャリアづくりの考えるヒント ~要素技術とエンジニアリングの間に見えたもの~

先日、とある老舗IT人材企業の代表にお会いし、業界のことやエンジニアのキャリアのあり方などについてインタビューをした。その模様は後日ブログにアップするが、それに先立ち、インタビューで得たさまざまなキーワードから、とくに印象に残る以下3つについてまとめておく。

・要素技術は時代とともに消える
・エンジニアリングそのものは消えない
・技術に対する覚悟

エンジニアという人間が持つ創造的なマインドは不変である
1980年代、世界一といわれていた日本の半導体メーカーが続々と脱落し、いまでは世界一という称号は跡形もなく消え去った。これをいまの日本のソフトウェア産業に置き換えてみると、エンジニアがキャリアのあり方を見つめ直すヒントになる。つまり、要素技術は予告なしに一瞬で消えてしまうのである。要素技術の運命を直視することが、エンジニアのキャリアづくりに重要な理由の一つである。

エンジニア向けの転職業界では、「Pythonで年収○○万円」「Swiftで年収○○万円」といった、要素技術と金額の関連が前面で取りざたにされる。要素技術のトレンドと年収額を比較しながらキャリアチェンジを続けるのも一つの戦略だ。しかし、果たしてそればかりでよいのかという問題提起を、今回のインタビューから受け取った。

新しい要素技術を身につけ転職するのもよいし、手にしたスキルを応用して業態転換をはかるのもよい。もちろん、なにもせずそのまま残ってもよい。そこに必要なものはただ一つ。エンジニアの技術に対する「覚悟」である。

エンジニアリングとは直訳すると「技術」や「工学」となるが、そこにエンジニアという人間がかかわると「なにを与えたいのかという創造的なマインド」が加わる。要素技術は時代とともに消滅する。永久に消えないのはエンジニアリングと、エンジニアという人間が持つ創造的なマインドである。そのうえで、技術に対する「覚悟」さえあれば、エンジニアは満足したエンジニア人生を送れるはずだ。

要素技術と創造的なマインドはたえず両輪である
インタビューの録音を聞きながらふと気づいたのは、これは、現在の出版産業とまったく合致する構造ではないか、という点である。

出版産業では現在、総売り上げは毎年前年割れ。町の書店は閉店が相次ぎ、出版社は刊行点数を絞り、書店では陳列スペースに置く売り物がなく、文具や食品を並べて販売するところも増えている。出版は絵に描いたような斜陽産業である。

そして出版産業で物を作る「エンジニア」は誰に相当するか。
その一人が編集者である。

編集者は紙や電子の出版物の編集という「要素技術」を使用し、なにを与えたいのかという創造的なマインドに基づいた「エンジニアリング」のもとで、出版物を制作する。時代の流れにしがたい紙の商業出版物がしだいに減っていき、それにともない紙の商業出版物への編集という要素技術へのニーズは変化を続けていく。

私がよくいうのは、いまの編集者とは、無声映画時代の、俳優の声を代弁する「活弁士」に相当するというたとえである。フイルムがサウンドトラックを備え、映画がトーキーになることで活弁士たちは職を失っていった。しかし一部の活弁士は司会者やアナウンサー、また芸能人になったりと、時代のニーズと手持ちのスキルをマッチさせ、業態転換をはかった。そうした彼らが持っていたものはなにか。それは、なにを与えたいのかという創造的なマインドに基づいた「エンジニアリング」である。言い換えると、生き残った活弁士は「自分の声と表現という身体能力で人を幸せにする」という、自らの与えるべき価値を知った人である。

エンジニアはたえず「消えうる要素技術の持ち主」
私も、ソフトウェアエンジニア出身の出版業界に23年身を置く人間として、上記は決して他人事ではない。
「社会的に魅力のある人物にお声をかけ、アウトプットを共有し、言葉とメディアを通して人を幸せにする」という編集者の職能を、広く社会活用できる仕組みがつくれたらよい。その意味でITエンジニアと編集者は、立場は違えど、「消えうる要素技術の持ち主」という意味で似た境遇に置かれている。その意味で、上記キャリアへの考え方が参考になれば幸いである。

また、それゆえに私は、コミュニティ「本とITを研究する会」を2017年に立ち上げた。私を生み育ててくれた本とITの世界をつなぎ、新しい社会価値を生みたい。この場から、ITエンジニアと編集者など本づくりに携わる人たちとの間で、新しい仕事、新しい価値提供の仕組みが生まれることを願っている。


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今月もさまざまな学びと交流の場を設けていきます。状況の変化は随時DoorkeeperやFacebookなどでお伝えしますので、ぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

【本とITを研究する会 Doorkeeper】
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ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

3月も皆様にとって、健康で実りの多い一か月であることを祈っております!

本とITを研究する会 三津田治夫
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