年が明け、早くも一週間。
とても長い連休を楽しんだ方、働きたくて仕方がなかった方、
さまざまでしょう。
みなさまにおいては、変わりなくお過ごしでしょうか。

新年を迎えるにあたり、これからの1年を考えた方は多いと思います。
私はもっぱら、IT出版プロデュースを手掛ける自分の会社のこれからの1年を考えていました。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2024年11月に発表した「世界デジタル競争力ランキング」では、日本は31位という結果で、「デジタルスキルの習得」にいたっては67位という低評価でした。
これには正直驚きながらも、ある種の納得もありました。
IT教育を熱心に行う先生方や、解説動画、資格試験の種類は増え、勤勉で学習熱心な日本人が、ITを学ぶ機会には事欠かないのに、です。
なにかがすっぽり抜け落ちているはずです。

最近よく耳にするのは「IT関連の資格試験がビジネス化している」という言葉です。
もちろん、資格試験は人の社会的なスキルを底上げする素晴らしい仕組みですし、寄付やボランティアなしに人が動いている限りビジネスは必須です。
しかし、もしかしたら、手段から目的がすっぽり抜け落ちてしまっているのかもしれません。
目的が見えなくなるほど、資格試験ビジネスにはうまみがあるのかもしれません。
あるいは、運営にコストがかかりすぎ、ビジネスを徹底追及しないと採算が取れないのかもしれません。

IT出版においては、出版不況などの業界構造の変化から、読み継がれる定番書籍や、技術を詳解したしっかりとした本を出しづらくなってきています。
ここに、すっぽり抜け落ちているなにかがあるという仮説を私は持っています。
こうした現状を憂い、自費出版でIT書籍の出版を行う人たちも増えてきましたが、ページ数が100を超えるとまとめきれない、共著の扱いが難しい、などの限界があると相談を受けることもありました。

IT書籍における商業出版の機能と目的は、
本づくりのプロたちが「出版物を通して技術を継承する」ところにあり、
それを実現するための手段としてビジネス(商業)があります。
その構造がゆがむことで、出版物を通して技術を継承する、が回っていないのではないかと考えています。

この辺はおいおいまとめてみたいのですが、
上記のようなことからも、私の会社である株式会社ツークンフト・ワークスでは、業界に資する「技術継承」をミッションに、業界のエキスパートたちを筆者にお招きし、出版活動を実施してまいります。
ITエンジニアの社会的影響力は、目には見えづらいものの、はかり知れません。
2025年の活動として、そうした力の社会へのアウトプットに注力してまいります。
もし、このような活動に関心のある方は、当方までいつでもお声がけください。

最後に、本号の「今月の雑感」では、季刊『大学出版』(2024年11月・秋号)に掲載された拙稿『師範のいない読書会』の、「後編」をお届けします。
(ちなみに「なぜIT出版と読書会に関係があるのか」についても、いつかまとめてみたいと思います)


●今月のブログ
都内で80年代を回想するレコード・イベント、「メタルDJ大会」を開催
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/12/20/001710

読みました:『ポルノグラフィア』(ヴィトルド・ゴンブロヴィッチ著、工藤幸雄訳)
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/12/05/110254

新刊『チームでの未来戦略の描き方 はじめてでもできるDX・事業変革プロセス入門』の見本が到着
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/12/01/111624


●今月の雑感:
「師範」のいない読書会 ~その可能 性と未来~(後編)

●印象深かった4冊の本 ~評論、文学、歴史から~
上記のなかでも、とくに印象深かった本をあげてみる。

〇『トランスクリティーク』(柄谷行人 著)
「この作品を読破したい」が、読書会を立ち上げたきっかけだった。
作家が書いたカントとマルクスへのラブレターともいうべき作品。
当時の読書会記録がほぼないところが悔やまれる。これを機に再読してみたい。

〇『本居宣長』(小林秀雄 著)
「私と『本居宣長』」をテーマに語りあった。
知識至上主義に対する小林秀雄と本居宣長の本質的なあり方に疑問を投げかける発言が印象的だった。
「ある程度の知識量がないとどういう話かがわからないし、知識はやはり大事にしなければいけないだろう」「しかしこの本では“そうではない”という点が疑問」「知識がなくては読めないものに関し、最後の最後で知識を捨てろと言っているようなもの」という意見が出た。
これに対し、「この本では、知識がなくてもよいとは言っていない」「小林も本居も圧倒的な知識を持っている。そういう人が言っていることに逆説がある」という冷静な反論があがったことが興味深かった。

〇『巨匠とマルガリータ』(ブルガーコフ 著)
「マタイの福音書をベースにした挿話は面白い」「聖書を理解していたらさらに面白そう」といった読書人としてのまじめな意見から、
「面白かったが感動はナシ」「ストーリーとして拡がりが少ない」「解釈のしようがない」といった辛口な意見も。
対して、「マンガ的に、純粋におもしろかった」「これはまさに幻想文学」「展開にスピード感があった」「ブラックユーモアと劇中劇が面白かった」という率直な発言が多くあがった。

〇『覚書 幕末の水戸藩』(山川菊栄 著)
尊王攘夷運動の引き金になった水戸の大津浜事件に関連し、
『白鯨』のハーマン・メルヴィルが捕鯨船で日本近海に来ていたことや、
山田風太郎の『魔軍の通過 天狗党叙事詩』には本作が相当の情報を提供しているはず、という議論が興味深かった。
生き生きとした幕末像が水戸を通して鮮明に見えてきた。

上記4冊にとどまらず、議論が紛糾寸前になった本(『現代議会主義の精神史的状況』(カール・シュミット 著))や、肩透かしにあった本など、めぐり逢った本たちの印象を数え上げたらきりがない。

なお、読書会の記録は下記のWebサイト「本とITを研究する」、
https://techdialoge.hatenablog.com/archive/category/%E8%AA%AD%E6%9B%B8%E4%BC%9A%E3%83%AC%E3%83%9D%E3%83%BC%E3%83%88
に掲載されている。興味のある方はこちらを参照していただけたら嬉しい。

●会を支える12人のメンバーたち
どんな人たちがこの読書会を支えているのだろうか。
メンバーは現役や元現役の編集者、文筆家、組織人、経営者といった、個性的で魅力的な面々で構成されている。
誘蛾灯に集まる虫たちのごとく、よくもまあここまで集まったものだと改めて感心している。
以下、メンバーたちを紹介させていただく。

まず、本会発起人のKNさんは版元の元編集長。
IT出版の黄金時代を構築された方である。私とともに第二の発起人のKMさんは霞ヶ関でシステムを構築するITエンジニア。膨大な知識と読書量をお持ちの方である。

第1回目の読書会から出席しているHHさんはIT版元のベテラン編集者。
海外でのリアル話が豊富。HNさんは発起人KNさんの幼馴染で元大手広告代理店の責任者。メディアや芸能界の裏事情に精通している。

SKさんはIT書籍のベストセラー作家で、本読書会の論客。
発言が最も手厳しい。KAさんは思想系月刊誌編集者を経て、大学系版元で文化民俗学系シリーズ書籍などを担当する若手編集者。

SMさんは理工系版元の編集者。
本会の中で唯一森鴎外全集を読破した人物。KSさんはIT版元編集者を経て理数系版元を立ち上げた版元経営者であり編集者。

SMさんは版元でWeb制作やマーケティングを担当したのちに起業。
日本文学にも造詣が深い才媛。YKさんは大手商社勤務。アジアや欧州など世界各国の留学歴が豊富な、アジア文化通の女子である。

KHさんは読書会を生業とする方。
リベラルアーツ的な知識の操り方と、ITと教養のつながりを模索する実践家。

最後に私に。
システムエンジニアを経てIT編集者になり、独立。出版プロデュース会社で経営と企画・編集・制作に携わる。

●この10年から見えた、読書会の未来
なぜここまで読書会が続いたのかメンバーと話し合ってみた。
飲み会が楽しい、本との出会いや発見が新鮮など、漠然とした理由はあるが明確な答えは得られていない。
この点を私なりに解釈すると、自由を求める人たちによる、職業や組織の枠組みを超えた集まりであったところが大きい。

社会のオンライン化は日々加速し、半面、身体性は低下している。
スピード感やタイムパフォーマンスという名目のもと、行動や意思決定には絶えず速度が求められる。
しかしながら人間は身体と実存の生き物である。
100メートル3秒で自走することはできないし、寿命は頑張っても100年、1日の持ち時間は24時間しかない。成人の肉体が形成されるまでには20年近くの年月を要する。
本というボディを持った物体に刷られた文字を自力で読み、インプットされたものを脳内で自問自答し声帯で言語化、全身で対話するという作業の価値は、読書会でしか得られない。

自由とは自発的に自分の意志で考え行動することであり、自由を手にするには他者との連帯と共感が必要である。
これは、生成文法の生みの親、言語学者のノーム・チョムスキーが2014年の来日時に上智大学の講演で語りかけた言葉だ。
読書会という小さな集まりにおいても、こうした自発的な自由と連帯という構造のなかで空間が成立していることは実感する。

言葉と身体性という2つのせめぎあいは、おそらくこれからもまったく変わらない。同時に、言葉と人の流通はますます激しくなる。
社会の変化はさらに加速し、人々は言葉と身体性との乖離に違和感を感じる。そして人々はさらに本を求める。
言葉と人の流通には従来のような巨大な組織や仕組みはもはや必要ない。
私たちの読書会のような人間系の小さな組織から、
生成AIやDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自律
組織)などITシステムを組み合わせた分散協調型の自律的組織まで、組織はより小さくなり、分散し、多様化する。
そして限りなく組織の存在感は弱くなり、国家の境界は薄くなる。
進化と停滞を繰り返しながら、これからも私たちは人間の定義を塗り替えていくことであろう。
そしてそれを実現するものは、いつの時代にも言葉である。
言葉を万人に届ける実体は、これからも「本」である。
そしてこれからも本は人と人をつなぎ、連帯のきっかけを生み出すのだ。

* * *

今後も、さまざまな対話と交流の場の提供を計画しています。
状況の変化は、随時メルマガやDoorkeeper、Facebook、SNSなどでお伝えします。
ぜひチェックしてください。

メルマガの登録は、こちらから。
【本とITを研究する会 Doorkeeper】
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/

本メルマガのバックナンバーは、こちらから 。
【バックナンバー】
https://www.zukunft-works.co.jp/posting/mailmagazine

ここまでお読みいただき、深謝いたします。
心働く、気持ちの良い明日が見えますように!

===================================

本とITを研究する会 三津田治夫
http://tech-dialoge.hatenablog.com/
https://www.facebook.com/tech.dialoge/
https://www.zukunft-works.co.jp/