師走らしく急に寒くなってまいりました。
みなさまにおいては変わりなくお過ごしでしょうか。

インターネットが出たころには、自由に使えるオンラインであると、ホビーから商用まで多方面での利用が期待されていました。半面、サイバー攻撃や情報漏洩など、いま起こっているインターネットのネガティブ面がすでに指摘されていました。
インターネットの主流がメール・WebからSNSに移ったいまは、こうしたネガティブ面がSNSで起こっています。
その最たるものが、巷を騒がせている「闇バイト」でしょう。
お金を欲しい若者や主婦、中高年などが、SNSの甘言に釣られてその道に入っていくというものです。どう考えても割に合わない職業選択なのですが、SNSを使って脅迫観念や危機心理をあおり、判断力を失った人から瞬間的に心をかすめ取るという手法が巧みに使われています。
一方で政治の世界では、SNSが主権を握るようになってきました。
宣伝カーや街頭演説、個別訪問といった得票活動は、もはや過去の手法になりました。
誰に投票して、どんな国家や地域に住み、納税するのかを決定する、国民にとっての一大行事に、上記のようなSNSが使用されているのです。

SNSは言ってみれば、超強力なデジタルビラ・チラシかもしれません。
瞬間的に大量の情報を個人に送り付け、相手に判断の隙を与えず、巧妙な心理誘導を実行します。言い換えるとSNSは、職業選択や政治選択といった個人の人生にかかわる重大な事柄に対して、冷静な判断を求め、促すメディアではない、ということです。
そう考えると、書籍はいまでも、人に冷静な判断を求め、促すメディアだと言うことはできないでしょうか。
SNSが人に判断の隙を与えない一方で、書籍はつねに相手(読者)に冷静かつ自発的な判断を求め・促します。
人の思考停止状態を利用してお金や権利が奪われていくいま、自発的な判断を求め・促す、書籍の社会的な位置づけと役割は、これからもますます重要になるでしょう。
こうしたSNSの時代だからこそ、読者に冷静で自発的な判断を求め・促す言葉を選りすぐり、書籍づくりを通して読者に届けてまいたいと考えています。

本号の「今月の雑感」では、季刊『大学出版』(2024年11月・秋号)に掲載された拙稿『師範のいない読書会』を、次号と2回に分けて掲載いたします。


●今月のブログ
2024年8月24日(土)開催:第48回・飯田橋読書会の記録
『覚書 幕末の水戸藩』(山川菊栄著)
~水戸から眺めた明治維新のオーラル・ヒストリー~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/11/15/152016

『大学出版』(2024年11月秋号)に、
私の読書会論「「師範」のいない読書会」が掲載されました
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/11/09/124541


●今月の雑感:「師範」のいない読書会 ~その可能 性と未来~(前編)
私たちは開催場所から、本会を「飯田橋読書会」と命名している。
人とのつながりを通して未知の本と深くかかわろう、本の新しい可能性を探ろうと、編集者とITエンジニアを中心に2014年に本会を立ち上げ、現在は12名で運営が行われている。
11年目に突入した私たちの読書会を動かしてきた要素のいちばんは、中心やトップを置かないという活動形態にある。
形としては発起人のKNさんが中心となっているが、他人の指示で動かない・発言しない、マウントを取らない、認知バイアスを仕掛けないという、個人の内発性に重点を置いた活動形態だ。
本の読み方をあるべき論で語ったり、知識の深浅を指摘したりもいっさいしない。
あくまでも、本をいかに自由に感じるか、感じたことをいかに自分の言葉で言語化するかを大切にしている。
こうしたことがいわば、ゆるいルールになっている。
この会の立ち上げ当初は、「うんちく禁止」「評論禁止」をたびたび口にしていた。うんちくや評論の場はネットなど別にある。
一見ゆるく、ある意味厳しいルールを設けながらここまで続けてこられたのも、個人としての本への自由な接触を求めた人たちの化学反応が続いたからだと思っている。
選書から意見交換まで、意外な言葉が出現する。会の終盤には思いもよらない印象や結論が出る。
そうしたことが毎回起こる。だから、読書会は面白い。

以下、私たちがこの10年で得た出来事や選書、印象深い本のこと、メンバーのこと、読書会の未来などを述べていきたい。

●オンライン開催から合宿まで ~印象深い出来事~
印象深い会はいくつもあった。
まず、2020~2021年にかけて6回、ZOOMによるオンライン開催に切り替えたこと。オンラインで読書会ができるものかと半信半疑だったが、意外にも盛り上がった。
そろそろいいだろうとオフラインを解禁した矢先、会のメンバーがコロナに
罹患してしまったことは最大の危機だった。
コロナ直前の軽井沢合宿は思い出深い。
車3台で分乗し、HNさんが所有する立派な別荘にお邪魔し、読書会の後は周囲観光や散策、浅間山を眺望するホテルで温泉に入ったり、夕食は近所でイタリア料理を食べ、別荘に戻ってピンクフロイドを聴きながらワインやビールを飲んだりといった2日間だった。
読書会という名目でオフライン活動のフルコースをメンバーと共有できたのは実に豊かな時間だった。
ちなみにこのときの課題図書は、ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー(上・下)』だった。

●文学から歴史・哲学までの異種格闘技 ~こんな本を読んできた~
2014年からの選書を56冊、以下に列挙する。

〇2014年開催
第1回『トランスクリティーク』(柄谷行人 著)
第2回『意識と本質』(井筒俊彦 著)
第3回『婆娑羅』(山田風太郎 著)・『異形の王権』(網野義彦 著)
第4回『台湾海峡』(龍應台 著)・『香港・濁水渓』(邱永漢 著)
第5回『五重塔』(幸田露伴 著)・『木に学べ』(西岡常一 著)

〇2015年開催
第6回『モモ』(ミヒャエル・エンデ 著)・『綿の国星』(大島弓子 作)
第7回『言葉の海へ』(高田宏 著)
第8回『人類の星の時間』(シュテファン・ツヴァイク 著)
第9回『忘れられた日本人』(宮本常一 著)

〇2016年開催
第10回『大衆の反逆』(オルテガ・イ・ガゼット 著)
第11回『方丈記私記』(堀田善衛 著)
第12回『方法序説』(デカルト 著)
第13回『堕落論』(坂口安吾 著)
第14回『イスラーム文化』(井筒俊彦著)・『イスラーム国の衝撃』(池内恵著)

〇2017年開催
第15回『銃・病原菌・鉄』(ジャレド・ダイアモンド 著)
第16回『ヴェニスの商人の資本論』(岩井克人 著)
第17回『山月記』『名人伝』『悟浄出世』『文字禍』(中島敦 著)
第18回『隷属なき道』(ルトガー・ブレグマン 著)
第19回『パイドロス』(ソクラテス 作)

〇2018年開催
第20回『サド侯爵夫人』(三島由紀夫 著)
第21回『現代議会主義の精神史的状況』(カール・シュミット 著)
第22回『見えない都市』(イタロ・カルヴィーノ 著)
第23回『最後の親鸞』(吉本隆明 著)・『歎異抄』(親鸞 著)
第24回『かもめ』(チェーホフ 著)

〇2019年開催
第25回『海上の道』(柳田國男 著)
第26回『山椒魚戦争』(カレル・チャペック 著)
第27回『ファスト&スロー』(ダニエル・カーネマン 著)
第28回『ぺてん師列伝』(種村季弘 著)
第29回『本居宣長』(小林秀雄 著)

〇2020年開催
第30回『ガリレイの生涯』(ベルトルト・ブレヒト 著)
第31回『人間・この劇的なるもの』(福田恆存 著)
第32回『生物はウイルスが進化させた』(武村政春 著)

〇2021年開催
第33回『ヴェニスに死す』(トーマス・マン 著)
第34回『孔子伝』(白川静 著)
第35回『現代経済学の直観的方法』(長沼伸一郎 著)
第36回『ギリシャ悲劇全集Ⅱ』(ソポクレス 著)

〇2022年開催
第37回『テヘランでロリータを読む』(アーザル・ナフィーシー 著)
第38回『新しい世界の資源地図』(ダニエル・ヤーギン 著)
第39回『巨匠とマルガリータ』(ミハイル・ブルガーコフ 著)
第40回『近代日本の陽明学』(小島毅著)

〇2023年開催
第41回『舞姫・安部一族』(森鴎外 著)
第42回『世界史の誕生』(岡田英弘 著)
第43回『昨日の世界(Ⅰ・Ⅱ)』(シュテファン・ツヴァイク 著)
第44回『百年の孤独』(ガルシア・マルケス 著)
第45回『アラブが見た十字軍』(アミン・マアルーフ 著)

〇2024年開催
第46回『少年が来る』(ハン・ガン 著)
第47回『「空気」の研究』(山本七平 著)
第48回『覚書 幕末の水戸藩』(山川菊栄 著)

ごらんのとおり、選書にはほとんど脈略がない。
これには参加者たちの発言やマインド、立場を固定化させずに、会の活性化を図るという意図が込められている。

* * *

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