日本は内閣総理大臣が変わって、またいろいろありそうです。
一方の欧州では極右政権が議席を獲得し、雲行きが変わってまいりました。
世界は刻々と揺れ動いています。

ところで、世間では読書会がブームのようです。
その流れで、私に読書会をテーマに雑誌寄稿の依頼が来ました。
読書会に関して5000文字の論考を入稿しました。
11月には全国で配本されます。また具体的な動きがあったらお知らせいたします。
本稿が日本の読書会文化を後押しするきっかけになったら嬉しいです!


●今月のブログ
書籍の企画書をつくるためのノウハウ④ ~販促編~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/09/15/124137

読みました:『自然主義と宗教の間』(ユルゲン・ハーバーマス 著)
~いま考えるべき宗教論、意識論、コミュニティ論~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/09/06/145349

全建物がアートにより構成。バウハウス旧宅ミュージアム
「ハウス・ラーベ」(Haus Rabe)を訪問
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2024/08/31/123053


●今月の雑感:「本離れ・活字離れ・出版不況」の謎
「本離れ・活字離れ・出版不況」というキーワードに関し、この道40年以上のベテラン編集者に話すと、こんな言葉が返ってきた。
「仕事をはじめたころから本は売れない売れないといわれつづけていた」と。
これらキーワードを長年聞き続けるにあたって、最近、「で、課題の本質はどこよ」と感じるようになってきた。
それを以下にまとめてみたい。

▲「より良いもの」という魔法の言葉
まず「本離れ」はどうだろう。
実際に本を読む人は減ってきている。ネットや動画に人は時間を取られ、あえて本に時間をつぎ込む必要はない。これに伴い書店は減少している。
手元で本を代替するような情報がすぐ(電子書籍も含めて)手に入るのだから、わざわざ書店に行く必要はない。
付随して「活字離れ」という言葉もある。
人は「文字離れ」したわけではないのは明確だ。ネットやスマホ上にはおびただしい数の文字が行き交っている。Webもメールもチャットも、すべて文字である。動画にも多数のテロップが流れてくる。むしろ人は文字そのものになにかを託している。
最後に「出版不況」だ。
書店の減少傾向は街を歩けば一目瞭然だ。出版社の経営が厳しいのは言うにおよばず、取次も配本する出版物の減少に伴い版権売買業務などへと業態を変えている。
大手印刷所はすでに業態転換しており、雑誌や書籍の印刷は付帯業務に二軍移行。いまや基板や液晶パネルを生産するIT企業になっている。
書店でも業態転換を試みている。飲食店やカーショップとコラボしたり、文具や蕎麦を販売したりと切磋琢磨している。

肝心の出版物生産の大元である出版社はどうだろう。
「より良いもの」を作ろうと必死である。
しかしこの「より良いもの」とは、出版においてたいへん奥が深い、魔法の言葉である。
この言葉はたびたび、「すぐに現金化するもの」という言葉にすり替わる。
とくに資金繰りに困ると、出版社は刊行物の点数を増発したり、Web記事的な企画を即時印刷して流通させようとしたり、「すぐに現金化するもの」に力を入れざるを得なくなる。
編集会議にも企画会議にもほとんど時間をかけていないような書籍を多発しはじめたなと見ていると、しばらくして倒産した出版社をいくつも見てきた。
そうしたあからさまな倒産は最近あまり見かけないが、類似の傾向はいまでもある。

そして次なる発想は、「すぐに売れるもの」、つまり、ベストセラーである。
出版社はベストセラーを狙いに走る。判断を早まると、業界話題性や新規性など、読者が瞬時反応する企画に力を入れだす。
しかし、外れた場合の痛手は大きい。
とくに出版物は、販売部数をはじめに見込んで印刷するので、見込みが外れると返品が厳しい痛手となる。物体とはいえディスカウントして売りさばくことも不可能という制度上の縛りもある。
こうした中で出版社が頭を絞ってとる行動は、痛手を最小化すると同時に、「すぐに売れるもの」を追求するのである。そのときにたびたび参考にされるのが、書店のPOSデータなどの過去情報である。
いままでどの本が何冊売れたのかを見ながら出版社は本を作る。
営業力が強い出版社ほど、過去に売れた本(つまり「いま」売れた本)から企画のエッセンスを自社企画にうまく取り入れ、「より良いもの」に手を加えて安価に売り出す。
このように商業的に乗り切っている出版社は少なくない。失礼な言い方が許されれば、二匹目のドジョウ商法である。
逆説的だが、その発想に出版不況という病を生み出す行動様式としての病因がある。
それを私は、「出版生活習慣」と呼んでいる。
つまり、「すぐに売れるもの」の一点追及により、企画への制約が増え、企画から寛容さが失われ、書籍から多様性が失われる。
企画から寛容さが失われるとは、企業にたとえると、幹部の多くが同じ学校のOBで構成されていたり、同族や学閥が経営を支配していたり、特定の属性の人物に偏って経営が評価するなど、動きが停滞し閉じた状況を示している。

▲出版生活習慣病から抜け出す方法はあるのか?
書籍とは本来、さまざまな読者の個性と向き合う自由な媒体である。
書籍企画の多様性の低下により、個人との真剣な対話のメディアとしての書籍ならではの存在価値が薄まりつつある。
書籍が多様でなくなったから出版不況なのか。
出版不況だから書籍の多様性が失われたのか。
ニワトリが先か卵が先かの議論になるが、双方は負のスパイラルとして相乗効果をなしていることだけは事実だ。
現在、自由と多様性の世界はネット上に構築されている。それらにはいつでもどこでも、手元から簡単にアクセスできる。
書店の開店時間や立地を調べて出歩いたり、本を注文してから届くまで待たされることもない。そこまでして人は自由と多様性を書籍に対して求めなくなっ
た。しかしネットには大きな制約がある。
自由と多様性を手にする代償として、個人の時間や個人の情報を差し出す必要があるのだ。

出版物に自由と多様性が求められなくなったのは組織社会の縮図でもある。
企業でパワハラという言葉が使われ始めたのはここ数十年の話だ。
昭和には企業内での従業員への暴力は教育や指導として暗黙にまかり通っていた。当時の栄養ドリンクのCMでは、商品を飲んで24時間組織のために戦いなさいというキャッチコピーが軍歌に乗せて流れていたことは昭和人たちの記憶に新しい。この時代の人たちは自己犠牲を通して組織に心身を捧げていた。それと引き換えに自分や家族の社会的な評価と生活を手に入れていた。
いま考えると異常だが、そんな組織社会で生きる人間が個人をむき出しにし、誰からの制約もなしに個人との対話を自由に行える場が、本だった。
チャットもメールもYouTubeもTikTokもSNSない時代のことである。
いまは、拳銃や武力によるパワーの行使を価値とする警察や自衛隊といった組織内部でもパワハラが問題視される時代になった。それだけ、組織の価値と個人の価値は分離されて考えられる寛容な時代になった。
出版社の配慮は、読者個人に寄り添う書籍企画の多様性の実現という、目に見えづらい価値にまで行き渡っているのだろうか。
目利きであることが出版のプロの仕事ではないだろうか。
そこが大きな疑問である。

▲多様性の受容と読者個人への配慮は双子の関係にある
===
本が、知識のあらゆる部門に互って激増したことは、近代の悪弊の一つである。即ち、その為に、読者は多くのがらくたの中から、役に立つようなものを手探りして見付けなければならなくなるから、此の本の激増は、正確な知識を得るのにとって、非常な障害となるばかりなのである。
(吉田健一 訳)
===

上記は19世紀のアメリカの作家で雑誌編集者であるエドガー・アラン・ポーの言葉だ。200年近くも前の出版人はすでに企画乱発に辛らつな言葉を使っていた。印刷という当時のIT(情報技術)・ハイテクが普及し、出版物を安価に大量生産できるようになった。
結果、貴重なエンタメ作品も芸術作品も「がらくた」も、一緒くたに出版物と
して流通された時代の言葉である。インターネット上のスパムメールのようなものである。
多様性も読者個人への配慮もいっさいない情報発信の結果である。

* * *

出版社は、過去の現象にすがるのではなく、個人の未来に焦点を当てた多様な企画に、企業のリスクを背負って本心でチャレンジしてもらいたい。
同時に、個人のリスクをもってチャレンジするプライドを持った編集者に出版社で本を作ってほしい。こんな時代だからこそ、本来の多様化という目標をもって、出版生活習慣病から抜け出そうとする同志が増えることを、心から願っている。

* * *

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