きわめて個人的なトピックではありますが、
11年間続けている読書会において、第52回目にして初のカフカの作品『審判』(『訴訟』)が選書されたことでした。
これほどまで世界に愛されている作家が、なぜ11年も取り上げられずにいたのかが謎ですが、「カフカは論じづらい」という理由から毎回却下されてきました。
しかしながら今回、複数人で『審判』を読み、感じたことを率直に語り合うことで、とても貴重で深い体験を味わうことができました。
作品の内容はおなじみの、理由もわからず訴られたとされる男が協力者を探しに右往左往する話で、その話そのものよりも、カフカという人物や彼の人間関係、女性関係に話が膨らみ、「1つの作品でこんなにも感じられ方が違うのか」
と、読書という体験の深さ、読書会のダイナミズムを改めて感じました。

今回の「本日の雑感」も、あえて個人的な読書体験談でまとめてみました。

●今月のブログ
読書会は「怪しい」のか?
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/08/28/175827

第51回飯田橋読書会の記録:『霊的最前線に立て!』
(武田崇元+横山茂雄)~オカルトと現代のリアルを考える~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/08/21/095758

読みました:『一条さゆりの真実』(加藤詩子 著)
~メディアに翻弄された魂の業の物語~
https://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2025/08/05/192136


●今月の雑感:読書について ~きわめて個人的な体験から~
本と接する自分を振り返る機会が増えてきた。
すると、体験の原点である読書そのものが見えてきた。
今回は単刀直入に「読書」について、個人的な視点から考えてみたい。

▲意識したときから「読書」は変化する
読書は、とくに意識せずにしていた。
小学校の図書室にあるものを気が向いたら読んだり、課題として読まされたりと、意識的な行動ではなかった。
蔵書は小学館の『昆虫の図鑑』と『魚介の図鑑』だけで、いわゆる読み物はなかった。唯一、小学校5年の誕生日にもらった子供向け翻訳版『ファーブル昆虫記』があったが、文字が小さく(二段組みだったと記憶)難しすぎて読むことができなかった。
完読したのは40代のこと。30年以上放置しており、「あのとき読んでおいたら人生変わっていたかも」と、思うことはときどきある。

読書を明らかに意識しはじめたのは大学に入ってからだった。
この時期は20代の後半にかけて、長期の入院や治療などで、行動の制約された時間と死への直面という体験をした。このときに思いついたのは、読書によって頭の中で時間や空間を移動できるのではないか、という仮説だった。
時間的移動は理論の中でしかできない。空間的な移動は物理的にしかできない。
しかし頭の中ではこれらが可能だろう。それを実証するために読書する。
そう意識しながら、小説やエッセイ、文学、哲学、社会学を中心に、無造作に手を出していた。
読書体験が次の次元に変化したのは、20歳で初の海外渡航のことだった。
頭の中での時間や空間の移動としての読書から、対話のツールとしての読書への、大きな変化だった。海外では、少し知っているいくつかの海外文学の作品名や作家名をあげるだけで、ユースホステルの相部屋や列車内で同席した世界中の人から尊敬されたのには驚きだった。
とくにドイツ人とはそのきっかけでつながった点が大きい。
片言のドイツ語と英語で、「授業でツヴァイクを読んで面白かった」「ゲーテを読んでみた」というだけで、彼らは興味深く耳を傾けてくれた。
逆から言えば、外国人から片言の日本語と英語で、「学校で夏目漱石を読んで面白かった」「三島由紀夫を読んだ」と言われたら、日本人はその外国人に対して勉強熱心な人だと尊敬するはずである。
10年以上前だったが、越谷駅前の焼き鳥で吉本隆明と小林秀雄を熱く語るポーランド人と日本文学を意見交換する機会があった。
彼の熱意と知性には尊敬以外になかった。

▲人種や宗教を超えた対話を促す読書
読書には、「この人は自国の文化を愛してくれているのだ」という印象を外国人に与える効能がある。そのため私は、海外に行く前には必ず、その国の文学や古典を一つ読んでおくことに決めている。
40代の話に飛ぶが、その効果が高かったのは、インドネシアに行く前に『コーラン』と『法華経』を読んで行ったことだ。
現地では信仰のない人間はNGとされると聞いていたので、日本人は仏教徒だと認識されているはずだから、最低限『法華経』は読んでおこうと、実行した。インドネシア人に宗派を問われたら迷わず「仏教徒です」と即答していた。
話の流れから「『コーラン』を読んだ」というだけで、インドネシア人たちには尊敬の目で見られた。
古本屋で買った装丁が素晴らしいインドネシア語版『コーラン』をテーブルに置いてナシゴレンを食べていたら、隣のインドネシア人に声をかけられたこともある。
そして一緒に写真まで撮った。彼らからすると、「こんなに素晴らしい書物を日本人も読んでくれてありがたい」という気持があるのだ。宗教への理解ではなく、「『コーラン』持っている」という事実そのものが、彼らにとって尊敬だったと思われる。
このときは、『法華経』と『コーラン』とは直接関係ないとは思うが、スコールが降ったときモスクに招き入れられ雨宿りしたり、礼拝の時間にたまたまモスクを通りかかったらムスリムから「足を洗って入れ」と招き入れられ、言われるがまま靴下を脱いで足を洗って中に入り礼拝に一通り参加したりなど、宗教的な出会いが多々あった。

こういう体験が個人的には多かったので、日本のことに関心を持っている外国人と出会うと、最大限の尊敬と敬意を示しながら接するように努めている。
読書を通した出会いやつながりから、現地の言葉を学ぶこともあった。読書体験がなければ、外国語を学ぶことはまずなかった。
外国語を学ばなかったら、世界の人たちのメンタリティはこんなにも違うということにもまず気付かなかった。
外国語を学べば学んだ言語の数だけ人生が豊かになるともいうが、本当にそうである。その意味でも、読書には感謝しかない。

読書を語ることは、旅行を語ることに似ている。
国内外問わず、他人の旅行話を聞くのが私は大好きだ。行ったことのない土地に行った気分になれるからだ。
読書を語り合うこともそれに似ている。他人の読書体験を聞くことで、読んだことのない本を読んだ気分になることができる。同じ本でも「こんなに違って読まれるのか!」という新しい出会いと発見がある。
大学時代に話が戻るが、バンドのメンバーとは江戸川乱歩やドストエフスキー、夢野久作を回し読みしていた。これは面白い面白くないなどと、高田馬場駅前の飲み屋で夜中まで議論する時間が新鮮だった。年齢も出身も異なるメンバーとの語りは日々興味深く、のちの読書体験や語学体験に深く影響を与えている。
編集者になったり、読書会を共同運営したり、読書を起点に人生は広がった。そして人生後半に差し掛かり本で起業し、読書なしには生きていくことができない状態にまでなってしまった。読書が人生を変えるとは、このことである。

▲異質を受け入れる精神の訓練
本にはよく、対話のツールとしての機能がある、といわれる。
本に書かれた言葉を通して自分に問いかける。そこから発した自分の言葉や感情と対話する。
本の中に登場する人物との対話。本を題材に他者と語るという対話。
さまざまな対話が本の中から発生する。
本の機能としてもう一つ気づいた点がある。
それは、自分とまったくの異質を受け入れる訓練のツールとしての本、という点だ。
これは、読書にしか持ちえない機能だ。
WebやYouTubeにはまず持つことができない機能である。
本の中には、あこがれる人物や尊敬すべき立派な人物がたくさん登場する。
一方で、最悪の人物、理解不可能な人物、受け入れがたい人物もたくさん登場する。
ときには、読むのが嫌になってしまうほどの人物も登場する。しかし彼らには必ず、作品の中に存在する理由が必ずある。なぜこんなに異質な人物の物語を自分が読むのか、疑問である。
しかしながら読む理由は、上記の通り。
自分とまったくの異質を受け入れる訓練、なのである。
受け入れることができないにしても、「こんな人間がいるのだ」という理解と学習につながる。
その理解が、言葉・文字を通して行われることに意味がある。
理解と学習があれば、さまざまな現実を(好き嫌いは別として)受け入れることができる。

マクベス夫人、カラマーゾフ、光源氏、呉一郎、など。彼らはすべて言語で表現された人物である。
精神病患者は自分の状況を言語化できることで精神病から解放されると発見したのは精神分析学者のフロイトだった。病的な人物も本の中で言語化されることで、病人から一人の人間になる。読書を通して、人間と出会うことができるのだ。

 * * *

読書で急に年収が増えることはない。しかし、読書を通して必ず増えることがある。
それは、現実に対する理解と納得だ。お金は墓場まで持ってくことはできない。
体で感じた理解と納得は、個人の精神に宿る。精神に宿ったものは、墓場の直前まで持っていくことができる。
読書の価値はここにある。

* * *

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