「本とITを研究する会」メンバーの皆様へ

お世話になっております。
この一か月、いかがお過ごしだったでしょうか。
9月20日には「『ステップバイステップで力がつく Googleアシスタントアプリ開発入門』発売記念ハンズオン ~AI会話機能アプリを作ってみよう!~」として、初のハンズオンを実施しました。30名近い参加者たちと、苦闘しながらアプリを作成しました。実際に動くGoogleアシスタントアプリを作る、貴重な体験を共有できました。多数のご参加に、感謝いたします。
また私個人は、9月下旬には仕事で台湾に行く機会を手にし、いろいろなものを見てきました。それについては「今月の雑感」で書こうと思います。

では、「今月のブログ」「今月の雑感」をお伝えします。

●今月のブログ

市場に疑問を投げかける、日本の出版衰退史を描いた文学エッセイ ~『日本文学盛衰史 戦後文学篇』(講談社刊、高橋源一郎著)~
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/09/27/112016

顧客課題の解決を巡るイノベーションの物語:『陸王』(池井戸潤 著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/09/21/103746

セミナー・レポート:8月31日(金)開催「AI自動運転で書き換わる 業界のルールと法規制」~第11回 本とITを研究する会セミナー~
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/09/11/203727

ジャニーズの芸能人が執筆した現代版『ウイリアム・ウィルソン』:『ピンクとグレー』(加藤シゲアキ 著)
http://tech-dialoge.hatenablog.com/entry/2018/09/01/211444

●今月の雑感:台湾のメディアから見た、日本の「本」のこと

27日から4日間、高雄経由で台北のITコンベンション「Taiwan Innotech expo」と「Discover Advanced Trends in E-commerce 2018」( https://www.ecexpo.com.tw/ )に行ってまいりました。
超高層ビル「台北101」に隣接する台北世界貿易センターで開催され、地元企業を中心に、世界中からAIやロボティクス、IoTの展示など、多数の企業が出展していました。
コンベンションにしては日本のAIバブルのような騒がしい雰囲気はなく、地に足のついた技術を中心におとなしくブースが構えられていました。

ホテルに戻ってテレビの電源を入れると、政治や経済のニュースが終始放映されているのが、とても印象的でした。
日本ではここ20年ほどで、芸能人の息子が覚醒剤やったとか、相撲の話など、政治経済以外のニュースが露出される割合が日増しに増えてきました。
芸能やスキャンダルも娯楽のニュースとしてもちろん必要ですが、言い換えるとこれら要素は、政治や経済のニュースを飽きさせずに見せるための呼び水でもあります。
テレビは娯楽の道具であると共に報道の道具です。台湾でこれを改めて感じました。報道で政治経済を知ることは、人間にたとえると、自分自身の健康状態を知ることです。

娯楽の提供に偏りすぎてしまったいまの日本のテレビ業界は、経営難で視聴率を稼ぐことが生き残りの手段となった結果です。しかし、国民が報道を通して自国の健康状態を知る機会が減ることで、日本の明日ははたして大丈夫なのかと、いささか不安になりました。
台湾には、中国や日本との歴史や国交のこと、国連に加盟していないこと、兵役があることなど、日本人には知り得ないさまざまなお国事情があるとはいえ、この報道格差には驚きを隠せません。

このように台湾のテレビを見ながら日本のメディアのことを考えていると、ふと、日本の出版のことが思い浮かびました。出版業界も視聴率を求めるテレビ業界と同様、経営難で生き残るために必死で、短期で収益化できる本が評価される傾向が日増しに高まっています。
そして、短期で収益化できる本の多くは「面白い」のです。食べ物で言ったら、甘くて柔らかく口触りのいいもの。甘くて柔らかく口触りのいいものばかりを食べていると、歯や顎が弱ります。同様に、甘くて柔らかく口触りのいい本ばかりを読んでいると、思考が弱り、言語運用能力が低下します。

甘くて柔らかく口触りのいい本ももちろんあってよいです。また、読むこともよいです。しかし、それに偏るのは、上記の弱りや低下を引き起こします。
以前は、娯楽雑誌や趣味の書籍と共に、文学や哲学、思想の本も書店に並び、読者はバランスよく言葉を摂取していました。
言い換えると、娯楽と教養のバランスがとれていました。しかし、そのバランスがいまや崩れています。これは先人の嘆きではなく、台湾のメディア(テレビ)との比較において、はっきりと感じたことです。

以前の出版業界には、文学や哲学といった「売れないけれど人が生きるために必要な本」を支えるビジネスモデルが存在しました。それがいま、崩壊しているのです。

最近は、個人が小さな書店を開いたり、ブックカフェを経営したり、小さな書店が同人誌を発行したりなど、いままでには見られなかった動きが出版業界に出てきています。これは「売れないけれど人が生きるために必要な本」を人に届けるための、本そのものだけを収益の手段としない、新しいビジネスモデルです。

作家の高橋源一郎さんが、「文学はなにに必要なのかと聞かれると即座に“生きるために必要”と答える。文学には生きるために必要な考えや言葉が詰まっている」と言っていたのが印象的でした。

私個人としても、「売れないけれど人が生きるために必要な本」をいかに人に届けるかが、大きな課題です。そのための一活動として、人の目に触れづらい書籍をブログやSNSで紹介することを意図的に行っています。
とくに社会の頭脳を担うITエンジニアたちには、本をたくさん読んでもらいたい。そんな思いを抱きながら、「本とITを研究する会」の運営を行っています。

私の経営する会社でも、「売れないけれど人が生きるために必要な本」を人に届けるためのビジネスモデルがいつか構築できたらと考え、活動しています。これは私のライフワークでもあります。似たようなゴール意識を持った同志たちが集まることも期待しています。

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今後もさまざまな学びと問題解決の場を設けていきます。状況の変化は随時DoorkeeperやFacebookなどでお伝えしますので、ぜひチェックしていただけたら嬉しいです。

【本とITを研究する会 Doorkeeper】
https://tech-dialoge.doorkeeper.jp/

ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

秋が深まる10月、皆様の健やかな毎日をお祈りいたします!

本とITを研究する会 三津田治夫
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